トップページ > 研究内容 >
toppage

research

seminar

member

access

photo

link

helpwanted

量子ホール効果の実空間観測

(1)表面点欠陥付近での磁場中2次元電子系

 磁場中2次元電子系で観測される量子ホール効果は、物性研究の中で最も基本的かつ重要な量子現象の1つであり、これまで多様な研究が行われています。一般にホール抵抗が整数量子化値をとる局在状態では、電子は不純物や試料端の作る等ポテンシャル線に沿って磁気長程度の幅をもって運動すると考えられています。しかし、通常の2次元電子系は表面から100 nm程度の深さにある半導体ヘテロ接合界面に形成されるため、量子ホール状態をナノメートル・スケールで実空間観測することは難しく、これまで明瞭に観測された例はありません。そこで我々はULT-STMを使って、より2次元性の強いHOPGの表面欠陥付近のLDOSを走査トンネル分光観測し、量子ホール効果の局在・非局在状態を明瞭に可視化することに初めて成功しました [1,2]。

 試料−探針間のバイアス電圧を掃引すると、ランダウ準位間の谷のエネルギーでは表面点欠陥の周りに局在した状態が、またランダウ準位のピークのエネルギーでは試料全体に広がった電子状態が交互に観測されました(図1)。点欠陥付近に局在したLDOSの分布は中心に最大振幅をもち、その周りには磁気長程度の半径のサテライトリングをもつことが分かります(図2)。この分布は、磁場中で1/rポテンシャルに捕獲された2次元電子ガスに対するLDOSの計算結果と半定量的に一致します [1]。

graphite_data2

図1
(a)
点欠陥付近(赤)と欠陥から離れた位置(黒)でのトンネル分光の比較(B = 6 T, T = 30 mK)。
 
(b)-(i)
さまざまなバイアス電圧での点欠陥付近のdI/dV像(80 × 80 nm2)。点欠陥は像中央にある。全ての像でコントラストは統一している。

graphite_data3

図2
(a)-(e)
LL1とLL2の間の谷のエネルギーにおけるdI/dV像の磁場変化(80 × 80 nm2)とその断面図(T = 30 mK)。矢印はサテライトリングの直径を示す。
 
(f)
1/rポテンシャルに捕獲された磁場中2次元電子ガスに対するLDOS計算結果。

 以上の結果は、東京大学大学院総合文化研究科の吉岡研究室との共同研究に基づきます。

[1] Y. Niimi, H. Kambara, T. Matsui, D. Yoshioka, and H. Fukuyama, Phys. Rev. Lett. 97, 236804 (2006).

 

(2)人工的に形成した表面欠陥上の局在・非局在状態

 欠陥が1つではなく現実の量子ホール系で期待されるとおり複数個あり、ポテンシャルの形状もさらに複雑な場合、上記の局在・非局在状態はどのようになるのでしょうか?この研究ではArイオンスパッタの手法で人工的に表面欠陥を複数個作って同様のSTM/STS測定を行いました [2]。その結果、点欠陥の時と同様、ランダウ準位間の谷とピークのエネルギーでそれぞれ局在・非局在状態が交互に観測されました(図3(a)-(n)及び動画参照)。局在状態に注目すると(図3(a),(m),(n))、点欠陥付近で観測された1/r型ポテンシャル中のLDOSで説明される局在分布(×で記された欠陥)とは別に、調和振動子型ポテンシャル中のLDOSで説明される局在分布(○で記された欠陥の直上には最大振幅がなく、周りにリングを形成する分布)も観測されました(注:△で記された欠陥の周りには局在状態は現れません)。さらにLL0,-1が静電ポテンシャルに非常に敏感であることを利用して、この系のポテンシャル分布も知ることができます。図3(q),(r)にあるように、×で記された欠陥の周りのポテンシャルは○で記された付近のポテンシャルより深く、また局在状態から非局在状態に至る際、ポテンシャル分布を反映してポテンシャルの山になっているところ(図3(h),(k)領域A,B)は避けるように電子状態が拡がってゆく様子が観測されています。これらの実験結果から、(i)局在状態の実空間分布はポテンシャルの関数形によって決まること、(ii)量子ホール効果で期待されるとおり、局在状態から非局在状態に至るまでポテンシャルの等高線に沿って電子状態が拡がってゆくということがわかりました。

graphite_data4

図3
(a)-(n)
Arイオンスパッタで作られた表面欠陥上におけるさまざまなバイアス電圧でのdI/dV像と
(o)
同じ位置で観測されたSTM像(B = 6 T, T = 30 mK, 100 ´ 100 nm2)。全てのdI/dV像でコントラストは統一している。またSTM像で観測された全ての欠陥に番号が割り振られている。
(p)
全領域で平均化されたトンネル分光(黒)と変動係数(分散値を平均値で割ったもの)のバイアス電圧依存性(赤)。
(q)
ポテンシャル分布を反映したLL0,-1でのdI/dV像と
(r)
いくつかの場所で測定されたトンネル分光の比較。欠陥付近のポテンシャルは他の領域に比べて低く(LL0,-1がマイナス側にシフトしている)、領域A,Bでは逆にポテンシャルは周りに比べて高い(LL0,-1がプラス側にシフトしている)。

[2] Y. Niimi, H. Kambara and H. Fukuyama, Phys. Rev. Lett. 102, 026803 (2009).

>> ページトップ


gelb
copyright